「いかしあうつながり」をテーマに、新しい暮らしの実践者を訪ねる連載企画。
今回訪れたのは、山間部にある巨大な廃工場を買い取り、廃材だけでエコヴィレッジを作り上げている
『スクラップ・ビレッジ「ゆるび」』の村長、田坂 健太氏です。
かつては「ブラック企業ならぬ、ブラック・ビレッジだった」と笑う彼がたどり着いた、お金にも時間にも縛られないコミュニティデザインの極意とは?

「廃材は情熱さえあれば集まる」を信じて
ーーまずは自己紹介からお願いします。この場所、ものすごい迫力ですね。
田坂: 今は『スクラップ・ビレッジ「ゆるび」』という場の運営をしています。
きっかけは2011年の震災でした。当時、エネルギーのことや暮らしのことを深く考えさせられて、「人生はいつ終わるか分からない」と痛感したんです。それで仕事を辞め、お金のかからないライフスタイルを模索する旅に出ました。
九州や四国を車で巡っていた時、ある場所で「廃材だけで家を建てて暮らす家族」に出会ったんです。どうやって材料を集めるのか聞いたら、「廃材は情熱さえあれば集まる」と言われて(笑)。その言葉に雷に打たれたような衝撃を受けました。「俺にも情熱はあるから、できるかもしれない」って。
最初は自宅の庭に10平米くらいの小さな小屋を建てる計画だったんです。でも、物件を探しているうちに、この山奥の廃工場がいきなり売り出されているのを見つけてしまって。「ここでやった方が絶対に面白いプロジェクトになる!」と直感し、そのまま衝動買いしました。おかげで貯金はすっからかんになりましたけどね(笑)。
メンバーは自分だけ。「ブラック・ビレッジ」時代の苦悩
ーー最初から順調だったわけではない?
田坂: 全然です(笑)。最初は6人の仲間でスタートしたんですが、廃工場をリノベーションする作業があまりにも過酷すぎて、徐々にメンバーが減っていき、最終的には僕一人になってしまいました。

ーー一人でこの広さを?
田坂: そうなんです。当時は「大工事Day」と銘打ってSNSでボランティアを募っても、誰も来ない日があって。
氷点下の冬の朝、一人で冷え切ったバールを握りしめて、一日中釘抜き作業をしていました。「みんなでやるはずだったのに、なんで俺一人なんだろう」って。まさに「ブラック・ビレッジ・ガチガチ時代」でしたね(笑)。
でも、そんな死闘を2年くらい続けていたら、逆にその「必死さ」を面白がってくれる人たちが現れ始めたんです。
そこで気づいたのは、固定のメンバーで運営しようとするから苦しくなるんだ、ということ。そこから方針を切り替えて、「通い型の村民」というゆるやかな関わり方をデザインし始めました。それが今のコミュニティの原型になっています。
竹細工からYouTuber研究まで。「部活」で回る村
ーー今はどんな人たちが関わっているんですか?
田坂: オープンしてから数年経ちますが、今は登録している「村民」が540人くらいいます。
毎週のように来る人もいれば、年に一度のお祭りにだけ顔を出す人もいる。関わり方は自由です。
最近は「部活動」が活発ですね。例えば**「竹細工部」。地域の竹林が放置されて荒れているので、その竹を整備しつつ、切り出した竹でコーヒードリッパーや籠を作っています。顧問は、村民の中にいる本職の竹細工職人さんです。
あとは「発酵部」で味噌や乳酸菌飲料を作ったり、「フリーランス研究部」**では、どうやって好きなことで食っていくかを真剣に議論したりしています。この間は登録者数10万人のYouTuberを招いて、Zoom会議をしていましたよ。
ーー地域の方との交流はあるんですか?
田坂: ありますね。僕はここで自治会長や民生委員もやっているので。
最近面白かったのは、近所のおじいちゃんから「餌やりをしていた野良猫が増えすぎて困った。捕まえて避妊手術に連れて行ってくれ」と頼まれたミッションですね(笑)。村民たちと協力して解決したら、お礼に大量の野菜をもらいました。
お金ではなく、困りごとの解決と感謝で経済が回る。本来の「村」ってこういうことだったのかなと感じます。
水道代0円、電気は自給。「カオス」を受け入れるインフラ
ーー生活インフラはどうなっているんでしょうか?
田坂: かなり自給率は高いですよ。電気はソーラーパネルで6〜7割を賄っています。
水に関しては、山からの湧き水をポンプアップしたり、雨水をろ過したりして3系統を確保しているので、水道代はタダです。
トイレはコンポスト(堆肥化)式です。排泄物を微生物に分解してもらって、畑の土に還す。最初はミミズコンポストだったんですが、今は色んな虫が混ざり合って**「カオス・コンポスト」**になってますけど(笑)。
かつてはコバエが発生して嫌だなと思ったこともありましたが、ある先輩に「あれはゴミのエネルギーが虫という形に変換されて飛んで行ってるんだよ」と言われて、妙に納得しました。分解者は偉大です。
幸福の指標を書き換える「脱・経済依存」
ーーこれだけの施設を維持するのに、お金はどれくらいかかりますか?
田坂: 驚かれるんですが、固定資産税と足りない分の電気代を含めても、年間の維持費は10万円いきません。
運営費はドネーション(寄付)制にしていて、「お気持ちで」と言っているんですが、村民がお米やパスタを持ってきてくれたり、ガスボンベを差し入れてくれたりして、なんだかんだ成り立っています。
ーーお金に頼らない暮らしを実現して、何が見えてきましたか?
田坂: 現代社会は「お金を稼ぐこと」にシステムが依存しすぎていて、精神的な豊かさが置き去りになっている気がします。
かつての狩猟採集社会のコミュニティには、家賃なんて存在しませんでした。漁が得意な人は魚を獲り、料理が得意な人は料理をする。神様から与えられた能力をシェアし合うことで、安心感を担保していたはずなんです。
今は逆ですよね。お金を稼げる人が食料を独占して、そうでない人が飢えてしまう。
「ゆるび」は、極端にお金への依存度を下げる実験場なんです。ここに来れば、お金がなくても、特技や労働をシェアすることで食べていけるし、笑っていられる。
最初の4年間、お金がなくて野草を食べていた時期もありましたが(笑)、今はその経験があるからこそ、何があっても生きていける自信があります。
頑張ってサービスをするんじゃなくて、足りないものはみんなで持ち寄る。そうやって依存先を変えることで、ようやく僕も「ガチガチ」ではなく、本当の意味で「ゆるゆる」な村長になれた気がしますね。





