障害のある方もない方も、一緒にクライミングを楽しんでもらいたい!

視覚情報を超えて、「声」と「指先」でつながる壁。パラクライミング団体『Connect Wall Kansai』代表・沢村大樹さんが目指す、ユニバーサルな景色

神戸市内にある、とあるクライミングジム。週末の賑わいの中に、少し変わった光景がある。
アイマスクをしたクライマーが壁に張り付き、その下から「右手、2時の方向!」「左足、膝の高さ!」と、まるで管制塔のような的確な指示(オブザベーション)が飛ぶ。
次の瞬間、クライマーがホールドを掴むと、ジム全体から「ナイス!」と歓声が湧き上がった。

ここは、視覚障害のある人もない人も一緒に楽しむクライミングコミュニティ『Connect Wall Kansai(コネクト・ウォール・カンサイ)』の活動現場だ。
代表を務めるのは、広島県出身の**沢村 大樹(さわむら・たいき)**さん。
「ただ登るだけじゃない。ここは社会の縮図なんです」と語る彼に、活動の原点と、その先に見据える未来について話を聞いた。


「迷ったら、前に出る」ラクロス部時代の教え

沢村さんは広島県広島市出身。お好み焼きと牡蠣の街で育ち、大学進学を機に神戸へ。以来、この「海と山に囲まれたハイカラな街」が肌に合い、住み続けているという。
彼がパラクライミングの世界に足を踏み入れたきっかけは、一本のメッセージだった。

「関東で『ユニバーサル・クライミング』を主催しているNPO法人『アセント・ジャパン』の代表・高橋さんから突然連絡があったんです。『関西でも拠点を立ち上げたいから、運営メンバーやらない?』って。正直、最初は戸惑いましたよ(笑)」

当時、沢村さんは自身も「マイ・プロジェクト(自分ごとの活動)」について模索していた時期だった。「障害のある人とない人が、対等に学び合える場を作りたい」。そんな想いを抱きながら、ソーシャル系メディアの記事を読み漁っていた頃だ。

「不安はありました。でも、僕には大学時代に所属していたラクロス部のコーチから叩き込まれた**『”迷う”くらいなら、”前に出る”を選べ』**という指針があったんです。立ち止まって後悔するより、動いて失敗した方が経験になる。そう思って飛び込みました」

その決断が、現在の『Connect Wall Kansai』へと繋がっている。今では神戸に住みながら本家のNPO法人の理事も兼任するほど、どっぷりとその世界に浸かっているのだから、人生は分からない。


壁の前では、誰もが等しく「挑戦者」になる

現在、『Connect Wall Kansai』は隔月で開催され、毎回15人ほどが集まる。そのうち3〜4名は全盲や弱視の視覚障害者、最近では聴覚障害のある方や車椅子ユーザーの参加者も増えているという。

「クライミングって、個人競技に見えて実はチームスポーツなんです。特に視覚障害クライミング(ブラインドクライミング)は、登る人の『勇気』と、下から指示を出すサイトガイド(晴眼者)の『言語化能力』が噛み合わないと、一歩も進めない」

そこにあるのは、「障害者を助けてあげる」という一方的なボランティア精神ではない。
見えない恐怖と戦いながら一手を出した時の達成感。そして、自分の声だけを頼りに登ってくれるパートナーへの信頼感。壁の前では、障害の有無に関係なく、誰もがただの「挑戦者」になるのだ。

「最初は恐る恐る参加していた人が、帰る頃には『次はもっと高い壁に行きたい!』って汗だくで笑っている。その変化を見るのが一番の楽しみですね」


笑顔があふれる「社会の縮図」を、ジムの外へ

沢村さんが目指すのは、単なるスポーツサークルの枠を超えた「日常的なつながり」の創出だ。

「イベントで知り合った人たちが、イベント以外の日にも『今度おいしいご飯食べに行こうよ』と誘い合って出かける。そんな風景が当たり前になればいいなと思っています」

実際、ここでの出会いをきっかけに、仕事の相談をしたり、一緒に旅行に行ったりする関係性が生まれている。クライミングという共通言語が、属性の壁を軽々と越えさせてしまうのだ。

「ジムの中って、すごいハッピーな空気が流れているんですよ。白杖を持っている人も、義足の人も、学生も経営者も、みんなが笑い合って、互いの違いを面白がっている。これって、僕たちが目指すべき『インクルーシブな社会』の縮図だと思うんです」

沢村さんの視線は、ジムの外、つまり社会全体へと向けられている。
この小さなジムで起きている「奇跡のような日常」を、外の世界へ広げていくこと。それが『Connect Wall Kansai』の次のフェーズだ。


5年後の未来予想図

最後に、今後の展望について尋ねてみた。沢村さんは少し照れくさそうに笑いながら、こう答えた。

「実は、あまり先のことは考えないタイプなんです。決めたら、今やるべきことに集中しちゃうので(笑)。
でも、5年後は…今よりもっと忙しく動き回っていると思います。つながりの輪が広がって、神戸だけじゃなく大阪や京都、あるいはもっと広いエリアで新しいプロジェクトを立ち上げているかもしれない」

そして、こう付け加えた。
「あ、あとクライミングのグレード(難易度)も、もう少し上がっているといいですね(笑)」

「できない」と思い込んでいた壁を、ホールドを掴む指先と仲間との声掛けで乗り越えていく沢村さん。
「前に出る」を選び続ける彼の手によって、関西のクライミングシーン、そして地域社会のあり方は、少しずつ、しかし確実に変わり始めている。

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