「未来を、編みなおす。」

このタグラインのもと、『D-CULTURE REVIEW』があらためて追いかけたいキーワードのひとつに、「リジェネラティブ(Regenerative)」があります。

「リジェネラティブ」をシンプルに訳すと「再生」ですが、この言葉は近年の環境問題や気候変動に対処するアプローチとして、急速に使われ始めています。

マイナスをゼロに戻していくのが「サステナビリティ(持続可能性)」だとしたら、それだけでは人口増加に伴う資源の枯渇や、気候変動といった大きな課題を解決することは難しいのではないか。
そこでいま注目されているのが、地球環境の持続可能性だけを追求するのではなく、地球環境を修復・再生しながら、生態系全体を繁栄させていく、つまりマイナスから一気にプラスまで持っていく「リジェネレーション(再生的)」という概念です。

当編集部では、生態系の回復と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻すような仕組みをつくるには何が必要なのか、先行してどんな「リジェネラティブ」な事例があるのかをリサーチし、学びを深めているところです。

とはいえ、まだまだ私たちは学びの入り口に立っています。そこで今回は、「リジェネラティブ」にまつわる5つの事例を紹介しつつ、みなさんと一緒にこの概念の解像度を高めていけたらと思います。


1. 耕作放棄された半島を、リジェネラティブ農業で再生する

過疎が進む半島を、循環の拠点に。千葉県南房総市で子どもたちと未来の学び舎をつくる『海と土の学校』がいま、土壌再生に取り組む理由 by 渡辺沙織さん

千葉県南房総市で、海と山の恵みの中で子どもたちが自ら生きる力を学び取る滞在型プログラムを展開してきた「海と土の学校(Sea & Soil School)」。10年にわたる実績を積み重ねてきた今、「リジェネラティブ農業」を通じて生物多様な場をたくさんの人とともに育んでいこうと、新たな一歩を踏み出します。

『海と土の学校』代表・沢田健二さん
「リジェネラティブ農業は、これまでの『人間の都合で土壌が痩せていく』という流れを、『人の手が加わることで環境がより良くなり、生態系が豊かになる』という方向に変えていく農法です。

新しい概念のように見えますが、実はそれってここでは当たり前にやっていたことなんです。給食の残渣(ざんさ)を堆肥にして、鶏やヤギの力を借りながら土を肥やし、自分たちで野菜や米を育てて、それを子どもたちが収穫して食べる。ここでは本当にいろいろなものが循環しているんです。

すべては循環の暮らしの一部であって、今回の取り組みも、その円環が少し大きくなったのだと捉えています」

人口減少を前提に、限界集落を持続可能な形で未来へとつないでいく方法に「リジェネラティブ農業」が用いられていることに注目しました。「農業」「教育」「再生」をキーワードに、多くの人とともに紡いでいく大きな冒険は、今後も必見です。


2. 全国で起きている「山の窒息」を、再生する

今、山が呼吸不全を起こしている。土砂災害を受けた林業ベンチャーが乗りだす、自然みずから蘇る力を生かした土木再生 by 高山洋平さん

2020年の豪雨で被害を受けた、奈良県十津川村。地元で林業を営む会社の山も例にもれず甚大な被害を受けました。この土地で何が起こり、これからどうしていくのか。一般社団法人「森の脈づくり」の久我山宗一さんが、これまでのコンクリート土木や林業では考えられなかった方法で、大地を整えていきます。

久我山宗一さん
「データや重機がなくても、誰でもできることなんです。目で見て、手でさわって、風を感じて。昔の人たちはクワ一本で見事なほど安定した地形を保っていた。それは自然をよく観察し、水や空気がどう動きたいかを知っていたからです」

災害で崩壊した土地の水脈(みずみち)を整え、自然がみずから蘇ろうとする力を生かして再生をする現場では、実際にどのような検証をし、実現までのプロセスまでを知ることができます。久我山さんのアプローチに対し、現場の職人たちの常識が揺さぶられながらも前へ進んでいく様子に、圧倒的なリアリティを感じました。


3. “命が共鳴する瞬間”を大事にすること

源流に潜ったら真のサステナビリティが見えてきた。高知・仁淀川の「清流ダイブ」から学ぶ、命が喜ぶ暮らし方 by 南條あゆみさん

「真のサステナビリティは、人間が自然や地球を管理・コントロールしようとする奢りを捨てないと実現しないと思います。仁淀川の『清流ダイブ』を体験しに来ませんか?」
一般社団法人ブルー・ストリームの牧洋介さんのお誘いを受け、高知県へ向かいました。「リバーガイド」たちと共に、川で遊びながら、サステナブルな生き方・暮らし方のヒントを探っていきます。

牧洋介さん
「リジェネラティブとは、互いの命が響き合う、喜び合う状態を今よりもさらに増やしていくこと。今この瞬間、自分以外の誰の命が喜んでいるかを考えて行動することが大事な気がしています」

自分の命も、そのそばにある魚や虫の命も喜ぶことをする。シンプルで、どこにいてもできる実践だと思いました。牧さんたちから案内される遊びや繰り出される言葉から、リジェネラティブを「概念」としてではなく「体感(フィジカル)」として理解できるはずです。


4. 人間も、コンポストと同じ仕組みで土に還る!

自然界の循環を活用して約30日間で森の一部になる。新しい葬儀の選択肢「堆肥葬(ヒューマン・コンポスティング)」って? by 岸本エリカさん

世界初の「堆肥葬」のサービスは、アメリカ・オレゴン州ポートランドで数年前に開始されました。遺体は木材チップや藁と一緒に専用のカプセルに入れられ、30日後には、骨や歯などを含め、微生物によって土壌に再構成されていくそう。その後、数週間熟成させると、栄養価の高い堆肥として利用できる状態になるんです!

循環する自然のサイクルに人の命も参加する、新しくも本来的な「死のデザイン」をつくりだした事例です。ちなみにでき上がった堆肥は、親族が受け取り、庭木や家庭菜園などに利用することもできますが、州内の保護林に寄付することも可能なのだとか。自分の生き方に沿う形で、最後の還り方も選択したいですね。


5. お金で計れない「リジェネラティブ」の可能性

「再生」という希望を提示する、草の根上映スタイルの映画『土の記憶』 by 寺田誠さん

ドキュメンタリー映画『土の記憶(原題:Memories of Soil)』の字幕翻訳を手掛けた文化人類学者の木島悟さんは、リジェネラティブはひとつの世界観だと紹介しています。映画では、主にリジェネラティブ農業のさまざまなケースが登場しますが、単なる農法を指しているわけではないと理解するのがいいようです。

作中に登場する先住民族の長老の、「これは何も新しいことではなく、私たちの先祖が太古からやっていたことなのだ」という言葉には、深く考えさせられるものがありました。
リジェネラティブ農業とは何か。どのようにして、痩せた土地やそこに棲む生きもの、人々が回復していったのか。リジェネラティブがもたらす価値や、私たちが慎重に考えたい点について、俯瞰的に知ることができます。